きょうを潤してくれる、旨い酒。では旨い酒ってなんでしょう?そんな探究心から、日本酒の旨さをつくる様々な方にお話を伺い発信していくジャーナル「旨い酒ってなんだろう?」。
第一弾は、土田酒造 星野杜氏へのインタビュー記事です。きょうの日本酒でもファンの多い土田酒造さん。今回、5銘柄目となる「シン・ツチダ」の販売開始を記念して、インタビューさせていただきました。たくさん興味深いお話をお伺いできたので、前編・後編の二部構成でお届けします。
読むと日本酒がちょっと面白く、そして旨くなる。ぜひ、お愉しみください。
この記事のハイライト
🍶 「好奇心から始まる挑戦。面白く無いと、次に繋がらない。」
🍶 「常に発展途上。お酒は生き物であり、酒造りの道は極まらないもの。」
🍶 「自然の力を活用した酒造りだからこそ、土田酒造でしか造れない味ができる。それが個性。」
高校卒業時、唯一話を聞いてくれたのが、現土田酒造社長
濱道(きょうの日本酒):
今日はありがとうございます。
まずは早速ですが、星野さんは、いつ、どういうきっかけで土田酒造に参画されたんですか?
星野(土田酒造 杜氏):
17年前の2006年に東京バイオテクノロジー専門学校の醸造発酵コースを卒業し、同年の4月に土田酒造に就職しました。 農大に行く友達がいて、醸造の話を聞いていたら、これだ!と。お酒造りいいなと思ってしまったので、もうやるしかなかったんですよね。サッカー選手に憧れてサッカーを始めるのと同じような気持ちだったと思います。
東京の学校だったのですが、父親が群馬出身なので群馬の酒蔵かなと考えて。
当時は蔵ごとのウェブサイトもないので、組合のホームページで上から順番に電話をかけていって。どこも全然だめだったんですが、唯一ちゃんと話を聞いてくれたのが、いまの土田酒造の社長でした。
濱道:
思い込み、大事ですよね。これだ!と思ったものを正解にするまでやり続けるのは、簡単ではないと思います。星野さんにとって、お酒造りは天職だったわけですね。
「こっちの方が面白い」から始まる、酒造りのこだわり。
濱道:
17年間お酒造りをしてきた土田酒造さんについて、普段どういう説明をされていますか?
星野:
蔵のことを話すときは、酒造りにおける縛り(土田酒造さん独自のお酒造りのルール)のことをよく話します。
すべて純米、生酛(*)、添加物も一切使いません。また、基本的に群馬県産の飯米しか使いません。造り方で最近はまってることとして、90%精米というのもありますね。
*生酛造り:自然の力を活用した、昔ながらの日本酒の造り方。お酒造りに必要な乳酸菌を添加せず、自然の中の乳酸菌を取り込むことで酒母(日本酒を造る土台となる液体)を造る。
濱道:
土田さんのお酒造りの理念、とても特徴的ですよね。とことん自然なやり方で、お米をあまり削らず、お米のうまみをまるごと日本酒に落とし込む。
味を安定的に調整することができる添加物を一切入れない"無添加の酒造り"は、一見すると、大変な道をあえて選ばれているようにも見えます。
どうして、そのような造りをすることになったのでしょうか?
星野:
もともとは、添加物ってなんかキモくない?入れたくないよね。というところから来ています(笑)。 お酒をどうやって造っているのか話すとき、添加物の説明ってちょっとしづらいなと。添加物を入れるためには測ったりするわけですが、それもちょっと面倒だし、そもそも昔は入れてなかったんだよね?なら不要じゃない?と。
そんな感じで、添加物をちょっとずつやめていったんです。そしたら、最後には酒母に入れる乳酸だけになった。乳酸は、山廃・生酛の造り方なら添加する必要が無いわけで、それでなにも入れなくなったわけです。
それに、なにより、無添加の方がやっていて面白いんですよね。
もちろん、安定して醸造できる速醸(*)の方が心身にはよいんですけど(笑)。
面白くないと、次に繋がらない。毎日・毎年お酒を造るわけですから、作業みたいになってもつまらない。
*速醸:醸造用の乳酸を添加することによって酒母をつくる、現代の日本酒の主流の造り方。味がより安定する。
濱道:
なるほど。好奇心から始まった挑戦だったんですね。
面白いからやる、とても土田酒造さんらしいなと感じます。
お酒は生き物。お酒造りは極めようと思っても極まらない道。
濱道:
土田酒造さんについて、星野さんの言葉で表現すると、どんな言葉になりますか?
星野:
「発展途上」ですね。これまで17年間ここでお酒造りをしてきましたが、まだまだ引き出しを増やしている最中。迷い中というのが素直な気持ちです。
そして、今後も発展途上であり続けるべきではないかとも思っています。
うちの社長は、お酒造りは極めようと思っても極まらない道のようなものだといつも言っています。「酒造道」と呼んでいるくらいです(笑)。
お酒って、それ自体が生き物ですからね。
濱道:
お酒が生き物、まさにそうですよね。お酒を扱わせていただいていて、常々感じることです。造る過程で自然と向き合うこともそうですが、造られた後も保管方法や飲む時の温度帯で味が変わりますし、まさに生き物ですよね。
土田酒造さんはファンも多く、いつも美味しいお酒を造られている印象ですが、それでも「発展途上」と感じられているのは興味深いなと思いました。
ちなみに、星野さんにとって「旨い酒」ってどういうお酒ですか?
星野:
正直わからないんですよね。どんなシーンで、誰と飲むかによって味は変わるので。どんどんわかんなくなっている。
技術的にいえばオフフレーバー(*)がない、ということなのかも知れないけど、でもオフフレーバーがあっても美味しい酒はいくらでもある。
立場的にオフフレーバーを感知できるようにしているけれど、オフフレーバーがないことがいい酒の条件とも思っていないです。
*オフフレーバー:本来その食品・飲料が持つべき風味とは異なるにおい・味のこと。
最近は、日本酒の良さはアミノ酸かな、とも思い始めていたりします。
なので、アミノ酸をしっかり出すようにしていて、それが土田酒造のお酒のインパクトとして残っていると思います。
でも実は、日本酒業界の賞をとるお酒は、アミノ酸が低いんです。業界内での先生方の指導も、米の開発も、麹菌も、すべていかにアミノ酸が出ないようにするかを目指している。なので、うちのお酒造りは業界のトレンドとは逆張りです。
目指すのは、「個性のあるお酒造り」
濱道:
これだけ美味しいお酒を毎年造られている星野さんが、どんなお酒が「旨い酒」かはわからない、とはっきりおっしゃっているのは、みなさんびっくりするかもしれませんね。そして必ずしも、業界内で良しとされる造り方に合わせていないと。
そうなると、星野さんはどういう味を目指して、日々お酒を作られるのでしょうか?
星野:
お酒の味に関しては、正解がないということは分かっています。それは同時に、蔵の個性が大事だという事だと思ってます。ただ、個性とはなにか、がまだわかっていない。
うちの場合は、お酒造りの縛りが、言葉にしやすい個性のひとつだとは思います。
あとは、社長が、「この味を目指そう」と指針を掲げるので、それを目指したり。
ただ、うちではすべて純米・生酛・無添加なので、結果として(添加物等により味を調整していないので)他では絶対に出せない「土田酒造だけのお酒」になっているんですよね。蔵に棲んでいる酵母や、人の手についている菌によって味が造られているので。同じ材料を持ってきて同じ造り方をしても、他の場所・人だと同じ味にならない、というわけです。削ぎ落としていくと、これが本当に個性ということかもしれない。他では決して作れないから、価値がある。
これは、元々個性を作るために狙っていたというわけではないのですが、好奇心からやってみた先に、うちでしか造れないお酒=個性ができた、という感じですね。
濱道:
好奇心からいろんな添加物をやめ、完全に自然の力を活用した酒造りをされているからこそ、土田酒造さんでしか造れない味ができ、それが個性になる。かっこいいですね。
土田酒造さんのお酒は、味の幅がありつつも、やはりどこか根底に共通する個性があるなといつも感じています。
<8月25日 販売開始>
土田酒造飲み比べセット
米のうまみをまるごと日本酒に落とし込む造りによって、一度味わうと忘れられない驚きを提供してくれる土田酒造。定番の土田生酛と、蔵の個性が宿りつつも全く異なる味を持つシン・ツチダ。星野杜氏の技により造られた味の幅を、ぜひ飲み比べてお愉しみください。
- シン・ツチダ
- シン・ツチダ プリンセスサリー
- 土田生酛
〜〜後編に続く〜〜
- 定番の土田生酛に対して、「シン・ツチダ」とはどういうお酒なのか?
- 「シン・ツチダ」誕生のきっかけ
- 「シン・ツチダ」のおすすめの愉しみ方