呑んで美味しいもの、だけではない日本酒。
文化としての日本酒を掘り下げたり、日本酒というレンズを通して別の文化を見つめてみたり。
自由な探求と実験を行い、発信していくジャーナル「日本酒を遊び、文化を編む」。
今回見つめていくのは、ひな祭り。
女の子の健やかな成長と幸せを祈る「桃の節句」として知られる、日本の伝統的な行事です。
ひな祭りには、雛人形を飾り、ちらし寿司やひし餅などの祝いの料理を愉しむのが一般的ですが、あわせて古くから飲まれているのが「白酒(しろざけ)」。
「あかりをつけましょ ぼんぼりに お花をあげましょ 桃の花」の歌詞から始まる、あの童謡『うれしいひなまつり』にも、「すこし白酒 めされたか あかいお顔の 右大臣」という歌詞があるように、ひな祭りには白酒が欠かせないものでした。
節句とひな祭りの起源
白酒の歴史を遡ると、江戸時代からひな祭りの祝い酒として親しまれてきています。
古代中国や日本では、季節の節目となる日を「節句」と呼び、奈良時代に中国から伝わったこの暦には、季節の変わり目に無事に新しい季節を迎えるためのお祓いや儀式を行う風習がありました。
四季がはっきりしていて稲作を中心に生活してきた日本では、節句が多く存在していましたが、江戸時代に幕府が「五節句」として代表的な5つを定めます。
その中でも、3月3日の「上巳(じょうし)の節句」は、川で身を清めて宮中で宴を催す中国の風習と、日本の「禊祓(みそぎはらい)」や「人形」を流す習慣が融合し、やがて雛人形を飾る「ひな祭り」へと発展しました。
ひな祭りが「桃の節句」とも呼ばれるのは、3月3日の頃に桃の花が咲くことに加え、古代中国で邪気払いとして桃の花を清酒に浸した「桃花酒(とうかしゅ)」が飲まれていたことに由来します。
日本では、江戸時代から桃花酒の代わりに「白酒」が飲まれるようになりました。
その背景には、大蛇を身ごもった女性が白酒を飲んで胎内の大蛇を流したという説や、老舗酒蔵・豊島屋が桃花酒の代替品として白酒を販売したことが広まるきっかけになったという説があり、これは江戸時代の古文書『江戸名所図会』にも描かれています。
白酒の特徴と役割
白酒は、もち米や米こうじを蒸してみりんや焼酎と混ぜ、約1か月熟成させたもろみを軽くすりつぶして造る、白く濁ったお酒です。
日本酒と原料が似ていますが、みりんなどを加えているため、酒税法ではリキュール類に分類されます。アルコール度数は9~10%程度で、とろみがあり甘味の強い味わいが特徴です。
その白く濁った見た目は、純粋さや無垢を象徴するとされ、ひな祭りの清らかな雰囲気とよく調和します。
そして邪気が入りやすい季節の変わり目に白酒を飲むことで、厄を払い、新しい季節を迎える準備をしてきました。
現代のひな祭りと白酒
現在では白酒に代わり、スーパーなどでも手にしやすい、にごり酒や甘酒などを代わりに愉しむことで、ひな祭りの雰囲気を味わうことができます。
にごり酒のまろやかな口当たりは、ひな祭りの料理ともよく合い、祝いの席を一層華やかに演出してくれます。
お子さまには甘酒、大人にはにごり酒と、年齢を問わず祝い酒を囲んで、厄払いの意味を込めたひな祭りの文化を愉しみつつ、特別な一日を彩ってみてはいかがでしょうか。
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